今日取り上げる文章は、江戸時代の前期1660年頃に成立した『浮世物語』からの一節です。浮世坊というお坊さんが諸国を巡遊して見聞した笑い話や教訓を紹介する体裁をとっています。

作者は浅井了意
浄土真宗の僧であり、仮名草子の作家でした。『浮世物語』などの仮名草子は井原西鶴ら後世の作家に大きな影響を与えました。
浅井了意の作品「東海道名所記」の「いとおしき子には旅をさせよという事あり。」から、格言「可愛い子には旅をさせよ。」が生まれました。


意味をさぐりながら、(1)音読を心がける、(2)「何がおもしろい(興味深い)のか」を理解する、の2点に留意して、まず読んでみましょう。

本文

うぐひす、いとうつくしき巣を作る。

鳩、「これを習はん。」と思ひて、うぐひすに近づきて、巣のつくりやうを見る。

うぐひす、竹ぎれ、柴の折れを敷きわたして、その上に巣をかくるが、それまでも見とどけず、

竹、柴をわたしたるばかりを見て、「もはや心得たり。」と思ひて、

おのれ巣を作る時は、木の枝に柴の折れ四、五本をわたし、その上に木の葉を敷きて卵を産む。

卵、柴の折れのあひだよりもれ落つ。

伝へられたる奥義(おうぎ)をわきまへずして、

ただ見たる、聞きたるにまかせて、よくも知らぬことなれども、すべて知りたる顔したるを、鳩の巣にたとへたり。



(注)奥義・・・その道やそのわざでの、いちばん奥深くにあるひけつ。


文の主題(テーマ)を読み取ろう

まず具体的な逸話があって最後に教訓でまとめる、古文の一つのパターンを踏襲した文章です。

うぐいすは竹のきれはしや柴(小さな雑木)の折れたものを敷いた上に本来の巣を作っていたのに、鳩は最後まで見届けずに、うぐいすが竹や柴を置いたところまで見て、「もう、わかった」と早合点をしてしまいます。
自分がまねをして巣を作るときは、木の枝に柴を四・五本置いただけで、その上に木の葉をしいて卵を産みます。
当然、産んだ卵は柴の間からもれ落ちてしまいます。

文章の主題は、最後の、「伝へられたる奥義(おうぎ)をわきまへずして、ただ見たる、聞きたるにまかせて、よくも知らぬことなれども、すべて知りたる顔したる」は愚かなおこないだというところにあります。

「伝えられた奥義を理解せずに、ただ自分が見た、聞いたことだけを根拠に、本当は理解できていないことであるのに、すべてを知ったような顔をする」のは愚かなことだという作者の意見を読み取ることができれば、この文章を正しく読解できたことになります。


ワンポイント・レッスン

古文では、主語を示す助詞の「が」や、目的語を表わす助詞の「を」などをしばしば省略します。
参考までに省略されている助詞を補うと全文は以下のようになります。

「うぐひす、いとうつくしき巣を作る。
、「これを習はん。」と思ひて、うぐひすに近づきて、巣のつくりやうを見る。
うぐひす、竹ぎれ、柴の折れを敷きわたして、その上に巣をかくるが、それまでも見とどけず、竹、柴をわたしたるばかりを見て、「もはや心得たり。」と思ひて、おのれ巣を作る時は、木の枝に柴の折れ四、五本をわたし、その上に木の葉を敷きて卵を産む。
、柴の折れのあひだよりもれ落つ。
伝へられたる奥義(おうぎ)をわきまへずして、ただ見たる、聞きたるにまかせて、よくも知らぬことなれども、すべて知りたる顔したるを、鳩の巣にたとへたり。」

習わん」・・・「習おう」。
「ん」は、「~しよう」、「~するつもりだ」という意味の、意志を表わす助動詞の「む」が音便化して「ん」になったものです。

巣のつくりやう」・・・「巣の作り方」。
「やう」の発音は「よう」です。漢字で書くと「様」。「~の仕方」、「~の方法」という意味です。

もはや心得たり」・・・「もうわかった」。
「たり」は完了の助動詞で、「~した」の意味です。

おのれ」・・・「自分が」。

よくも知らぬことなれども」・・・「よく知らないことであるのに」。



せっかく読んだので、ついでに出題された問題も解いておきましょう

次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。

うぐひす、いとうつくしき巣を作る。

鳩、「これを(ア)習はん。」と思ひて、うぐひすに近づきて、巣のつくりやうを見る。

うぐひす、竹ぎれ、柴の折れを敷きわたして、その上に巣をかくるが、それまでも見とどけず、

竹、柴を(イ)わたしたるばかりを見て、「(    ウ    )。」と思ひて、

(エ)おのれ巣を作る時は、木の枝に柴の折れ四、五本をわたし、その上に木の葉を敷きて卵を産む。

卵、柴の折れのあひだよりもれ落つ。

伝へられたる奥義(おうぎ)をわきまへずして、

ただ見たる、聞きたるにまかせて、よくも知らぬことなれども、すべて知りたる顔したるを、(オ)鳩の巣にたとへたり



(注)奥義・・・その道やそのわざでの、いちばん奥深くにあるひけつ。


問い

1、傍線(ア)「習わん」を口語訳せよ。

(解答)
習おう

2、傍線(イ)「わたしたる」の主語を書け。

(解答)
うぐひす

3、(    ウ    )の部分に入れるのに最も適当なものを、(あ)~(お)から一つ選び、記号で答えよ。

(あ)いと口惜し
(い)よくも知らず
(う)もはや心得たり
(え)つゆ知らず
(お)いみじう寂し

(解答)
(う)もはや心得たり

4、傍線部(エ)「おのれ」は何をさしているか。文中の語で答えよ。


(解答)


5、傍線部(オ)「鳩の巣にたとへたり」とあるが、この文章で、どんなことを「鳩の巣」にたとえているか。最も適当なものを次の(あ)~(お)から一つ選び、記号で答えよ。

(あ)伝えられた奥義をまったく参考にせず、自分の経験を踏まえてものごとを判断すること。

(い)伝えられた奥義を十分に理解せず、よくは知らないことなのに知ったかぶりをすること。

(う)伝えられてきた奥義を知らず知らずのうちに理解し、ついにはその道をきわめてしまうこと。

(え)伝えられてきた奥義を無視してしまうので、あらゆることが理解できなくなってしまうこと。

(お)伝えられてきた奥義を軽く受け流していたのに、ものごとの本質までも理解してしまうこと。


(解答)
(い)


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