「古文を気楽に読もう」の(10)、今日は『十訓抄(じっきんしょう)』です。
十訓抄は鎌倉時代の説話集です。わが国や中国の説話(民話・伝説・噂話など人々の間に語り伝えられた話)280ほどがおさめられています。
若い人の教育を目的とし、十訓=十個の教訓(「人のためにはたらかないといけない」、「ごう慢であってはいけない」、「友だちを選ばないといけない」、など)を説話で説いたものです。
まず、本文を、(1)音読を心がける、(2)「何がおもしろい(興味深い)のか=作者の伝えたいことは何か」を理解する、の2点に留意して、まず読んでみましょう。
本文
楊梅大納言顕雅卿(やまもものだいなごんあきまさきょう)は、若くよりいみじく言失(ごんしつ)をぞしたまひける。
神無月(かんなづき)のころ、ある宮ばらに参りて、御簾(みす)の外にて女房たちと物語りせられけるに、
時雨のさとしければ、供なる雑色をよびて、「車の降るに時雨さし入れよ」とのたまひけるを、
「車軸とかやにや。恐ろしや」とて、御簾の内笑ひあはれけり。
さてある女房の「御いひたがへ常にありと聞こゆれば、実(まこと)にや。御祈りのあるぞや」といはれければ、
「そのために三尺のねずみを作り供養せむと思ひ侍(はべ)る」といはれたりける。
折節(おりふし)、ねずみの御簾のきはを走り通りけるを見て、観音に思ひまがひてのたまひけるなり。
「時雨さし入れよ」にはまさりておかしかりけり。
(注)
車軸…車の心棒のこと。平安時代の貴族は牛車で移動した。また、当時、どしゃぶりの雨のことを、その強い勢いから「車軸を流す」と表現した。
文の主題(テーマ)を読み取ろう
楊梅大納言顕雅卿(やまもものだいなごんあきまさきょう)は、若いときからよく「言失(ごんしつ)」をする人でした。
「言失」とは何か(漢字から推測してみてください)、そして、どんな「言失」をしたのかを読み取らないといけません。
「車の降るに時雨さし入れよ」・・・「車が降るから時雨をさしいれなさい」のおかしさがわかりますか。
「そのために三尺のねずみを作り供養せむと思ひ侍(はべ)る」・・・「『言失』をしなくなるように三尺のねずみを作って供養(祈ること)しようと思っています」のおかしさがわかりますか。
ワンポイント・レッスン
「いみじく」・・・「とても、ひどく」。
形容詞「いみじ」の連用形です。
「宮ばら」・・・「皇子、皇女」。
「宮」は、皇子、皇女などの皇族の敬称。
「御簾(みす)」・・・貴人の邸宅にかけられたすだれ。
「時雨(しぐれ)」・・・秋から冬にかけて降る断続的な冷たい雨。
「さとしければ」・・・「さっと降ってきたので」。
「のたまひける」・・・「おっしゃった」。
「のたまふ」は、「言ふ」の尊敬語。
「御いいたがへ」・・・「いいたがえ」=「言失」です。
「きは」・・・「近く、そば」。
「思ひまがひて」・・・「思い違って」。
「まさりて」・・・「~よりはもっと」。
せっかく読んだので、ついでに出題された問題も解いておきましょう
次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
楊梅大納言顕雅卿(やまもものだいなごんあきまさきょう)は、若くより(A)いみじく言失(ごんしつ)をぞ(2)(ア)したまひける。
(3)神無月(かんなづき)のころ、ある宮ばらに参りて、御簾(みす)の外にて女房たちと物語りせられけるに、
時雨のさとしければ、供なる雑色をよびて、「(4)車の降るに時雨さし入れよ」とのたまひけるを、
「車軸とかやにや。恐ろしや」とて、御簾の内笑ひあはれけり。
さてある女房の「御いひたがへ常にありと聞こゆれば、実(まこと)にや。御祈りのあるぞや」といはれければ、
「そのために(5)三尺のねずみを作り供養せむと思ひ侍(はべ)る」と(イ)いはれたりける。
(B)折節(おりふし)、ねずみの御簾のきはを走り通りけるを見て、観音に思ひまがひてのたまひけるなり。
「時雨さし入れよ」にはまさりておかしかりけり。
問い一
傍線(ア)「したまひける」、(イ)「いはれたりける」をそれぞれ現代かなづかいで書け。
(解答)
(ア)したまひける→したまいける
(イ)いはれたりける→いわれたりける
問い二
傍線(A)「いみじく」、(B)「折節」を現代語に訳せ。
(解答)
(A)いみじく→ひどく
(B)折節→ちょうどそのとき
問い三
傍線(3)「神無月」は陰暦の何月か。
(解答)
10月
月については、こちらを参照してください。
問い四
傍線(四)「車の降るに時雨さし入れよ」とあるが、本当は大納言はどう言うつもりだったのか。
(解答)
「時雨の降るに車さし入れよ」と言うつもりだった。
問い五
傍線(五)「三尺のねずみを作り」とあるが、本当は大納言は何を作るというつもりだったのか。
(解答)
三尺の観音を作るというつもりだった。
観音・・・観音さまの仏像。
問い六
文中の「言失をぞしたまひける」とは何をすることか。十字以内で答えよ。
(解答)
「言いまちがいをすること。」だと、十字をこえてしまいます。
「言いまちがえること。」で句読点を含めて十字です。
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十訓抄は鎌倉時代の説話集です。わが国や中国の説話(民話・伝説・噂話など人々の間に語り伝えられた話)280ほどがおさめられています。
若い人の教育を目的とし、十訓=十個の教訓(「人のためにはたらかないといけない」、「ごう慢であってはいけない」、「友だちを選ばないといけない」、など)を説話で説いたものです。
まず、本文を、(1)音読を心がける、(2)「何がおもしろい(興味深い)のか=作者の伝えたいことは何か」を理解する、の2点に留意して、まず読んでみましょう。
本文
楊梅大納言顕雅卿(やまもものだいなごんあきまさきょう)は、若くよりいみじく言失(ごんしつ)をぞしたまひける。
神無月(かんなづき)のころ、ある宮ばらに参りて、御簾(みす)の外にて女房たちと物語りせられけるに、
時雨のさとしければ、供なる雑色をよびて、「車の降るに時雨さし入れよ」とのたまひけるを、
「車軸とかやにや。恐ろしや」とて、御簾の内笑ひあはれけり。
さてある女房の「御いひたがへ常にありと聞こゆれば、実(まこと)にや。御祈りのあるぞや」といはれければ、
「そのために三尺のねずみを作り供養せむと思ひ侍(はべ)る」といはれたりける。
折節(おりふし)、ねずみの御簾のきはを走り通りけるを見て、観音に思ひまがひてのたまひけるなり。
「時雨さし入れよ」にはまさりておかしかりけり。
(注)
車軸…車の心棒のこと。平安時代の貴族は牛車で移動した。また、当時、どしゃぶりの雨のことを、その強い勢いから「車軸を流す」と表現した。
文の主題(テーマ)を読み取ろう
楊梅大納言顕雅卿(やまもものだいなごんあきまさきょう)は、若いときからよく「言失(ごんしつ)」をする人でした。
「言失」とは何か(漢字から推測してみてください)、そして、どんな「言失」をしたのかを読み取らないといけません。
「車の降るに時雨さし入れよ」・・・「車が降るから時雨をさしいれなさい」のおかしさがわかりますか。
「そのために三尺のねずみを作り供養せむと思ひ侍(はべ)る」・・・「『言失』をしなくなるように三尺のねずみを作って供養(祈ること)しようと思っています」のおかしさがわかりますか。
ワンポイント・レッスン
「いみじく」・・・「とても、ひどく」。
形容詞「いみじ」の連用形です。
「宮ばら」・・・「皇子、皇女」。
「宮」は、皇子、皇女などの皇族の敬称。
「御簾(みす)」・・・貴人の邸宅にかけられたすだれ。
「時雨(しぐれ)」・・・秋から冬にかけて降る断続的な冷たい雨。
「さとしければ」・・・「さっと降ってきたので」。
「のたまひける」・・・「おっしゃった」。
「のたまふ」は、「言ふ」の尊敬語。
「御いいたがへ」・・・「いいたがえ」=「言失」です。
「きは」・・・「近く、そば」。
「思ひまがひて」・・・「思い違って」。
「まさりて」・・・「~よりはもっと」。
せっかく読んだので、ついでに出題された問題も解いておきましょう
次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
楊梅大納言顕雅卿(やまもものだいなごんあきまさきょう)は、若くより(A)いみじく言失(ごんしつ)をぞ(2)(ア)したまひける。
(3)神無月(かんなづき)のころ、ある宮ばらに参りて、御簾(みす)の外にて女房たちと物語りせられけるに、
時雨のさとしければ、供なる雑色をよびて、「(4)車の降るに時雨さし入れよ」とのたまひけるを、
「車軸とかやにや。恐ろしや」とて、御簾の内笑ひあはれけり。
さてある女房の「御いひたがへ常にありと聞こゆれば、実(まこと)にや。御祈りのあるぞや」といはれければ、
「そのために(5)三尺のねずみを作り供養せむと思ひ侍(はべ)る」と(イ)いはれたりける。
(B)折節(おりふし)、ねずみの御簾のきはを走り通りけるを見て、観音に思ひまがひてのたまひけるなり。
「時雨さし入れよ」にはまさりておかしかりけり。
問い一
傍線(ア)「したまひける」、(イ)「いはれたりける」をそれぞれ現代かなづかいで書け。
(解答)
(ア)したまひける→したまいける
(イ)いはれたりける→いわれたりける
問い二
傍線(A)「いみじく」、(B)「折節」を現代語に訳せ。
(解答)
(A)いみじく→ひどく
(B)折節→ちょうどそのとき
問い三
傍線(3)「神無月」は陰暦の何月か。
(解答)
10月
月については、こちらを参照してください。
問い四
傍線(四)「車の降るに時雨さし入れよ」とあるが、本当は大納言はどう言うつもりだったのか。
(解答)
「時雨の降るに車さし入れよ」と言うつもりだった。
問い五
傍線(五)「三尺のねずみを作り」とあるが、本当は大納言は何を作るというつもりだったのか。
(解答)
三尺の観音を作るというつもりだった。
観音・・・観音さまの仏像。
問い六
文中の「言失をぞしたまひける」とは何をすることか。十字以内で答えよ。
(解答)
「言いまちがいをすること。」だと、十字をこえてしまいます。
「言いまちがえること。」で句読点を含めて十字です。
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