企業で雇われて働く人のことを、日本国憲法では「労働者」といいます。

労働者のいろいろな権利についてまとめました。

勤労の権利


日本国憲法第27条は1項で「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」と定め、2項「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」、3項「児童は、これを酷使してはならない。」と続きます。

「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」

憲法は、国民の権利を国が守るように、国に命令する法律です。
国民には勤労の権利(働く権利)があります。
働く意欲と能力がある人が働く機会をもたないとき、国は労働の機会を斡旋(あっせん)する義務を負います。

国は、職業安定法雇用対策法により、公共職業安定所ハローワーク)で職業の斡旋をしたり、失業した人が再就職するまで雇用保険で援助をしたりしています。

「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」
「児童は、これを酷使してはならない。」

18世紀イギリスで始まった産業革命は世界に広がり、資本家(経営者)が労働者(従業員)を使って工業製品を生産する資本主義社会が出現しました。
最初は、強者である資本家が弱者である労働者を搾取することが多かったのですが、徐々に、法律で労働者を保護する仕組みが整えられるようになっていきました。

わが国の、労働者を保護する代表的な法律は労働基準法です。

労働基準法には、次のような規定があります。

(男女同一賃金の原則)
・労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをしてはいけない。

(最低賃金)
最低賃金法で賃金の最低基準を定める。

(労働時間)
・1週間に40時間を超えて労働させてはいけない。
・1日に8時間を超えて労働させてはいけない。

(最低年齢)
・児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで働かせてはいけない。

労働基準法が守られているかどうかは労働基準監督署が監督します。

また、賃金以外の男女平等については男女雇用機会均等法などが制定されています。


労働三権(団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権))

日本国憲法第28条勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。


この条文に出てくる、「団結する権利」(団結権)、「団体交渉…をする権利」(団体交渉権)、「その他の団体行動をする権利」(団体行動権争議権))の3つを、労働基本権、3つの権利なので労働三権といいます。

団結権・・・労働者が労働条件を改善するために労働組合を結成する権利。
国や経営者が労働組合の結成を妨げたり、労働組合に干渉したりする行為は禁止されます。
 
団体交渉権・・・労働組合の代表者が労働条件について経営者と交渉する権利。
経営者は団体交渉を拒否できません。
 
団体行動権(争議権)・・・労働組合が経営者に労働者の要求を認めさせるためにストライキなどの団体行動をする権利。
経営者は正当な団体行動(争議)に対して、労働者を解雇したり、損害の賠償を求めたりすることはできません。


経営者と従業員(労働者)では、圧倒的に経営者のほうが優位です。
労働者が単独では、経営者と対等の立場に立てません。
そこで、労働者は、団結して労働者の団体(労働組合)を結成し、労働組合が経営者と交渉することで労働者の権利を守ろうとするようになりました。
歴史上、最初は国は資本家の側に立って労働者を弾圧しました。やがて、国は、労働者の団結する権利を認め、資本家と労働者が対等の立場で労働条件について交渉する仕組みを保護するようになりました。
わが国も、日本国憲法で、労働者の団結権、団体交渉権、団体行動権(争議権)を認め、保障しているわけです。


労働者の団結権団体交渉権を具体的に保障する法律は労働組合法です。

労働組合法

労働組合法は、労働者が経営者と対等の立場に立つために労働組合を組織することを国が保障する法律です。

労働組合を結成したり労働組合の活動をしたりすることを経営者が妨害する行為は不当労働行為とされ、この法律で厳しく禁止されています。

労働組合は、経営者との団体交渉を通して、労働条件について労働協約を結ぶことができます。

経営者と労働組合の関係を調節する機関として労働委員会が設けられています。


労働者は団体行動権争議権)を持ちますが、争議がこじれたとき、労働争議を円満に解決するための法律が労働関係調整法です。

労働関係調整法

労働者の団体行動のうち、ストライキ(労働者が労働組合の要求を通すために一斉に仕事を休むこと)などがおこなわれて争議が長期化したとき、労働委員会が間に入って経営者と労働者の関係を調整し、争議を解決することを目的とする法律です。


労働三権と労働三法との関係

団結権団体交渉権について定めている法律・・・労働組合法
団体行動権争議権)に関する法律・・・労働関係調整法
労働三権とは直接関係しない法律・・・労働基準法

上の分類でわかるように、労働三権と労働三法が、一つずつ対応しているわけではありません。

経営者(使用者)と比較して立場が弱い労働者個人個人を守るための法律が労働基準法です。

それに対して、一人だと弱い労働者が団体(労働組合)を結成する権利を保障して、労働組合が経営者と対等な立場で交渉することによって労働者の権利を保障しようとする法律が労働組合法労働関係調整法です。


労働三権を制限されている職種

公務員は、職業の特殊性から、国家公務員法などによって団体行動権を制限されています。
警察官自衛官は、団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権)の三権を持ちません。


現代の問題点

景気の長期化の影響で、企業は正社員(正規社員)の採用をひかえる傾向にあります。

正規の雇用に対して、パート(パートタイマー)、アルバイト、契約社員、派遣社員などを非正規雇用といいます。

非正規雇用の形態で働く人たちは、従来の労働三権では保護されないのではないかということが問題になっています。



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