有機物とは何か?
簡単そうで難しい問いです。

大概のテキストに載っている答えは「炭素をふくむ化合物」であったり、「炭素をふくみ燃えると二酸化炭素とふつう水ができる物質」であったりします。

ところが、「有機物とは炭素をふくむ化合物である」と定義されながら、「二酸化炭素のように簡単なつくりの化合物は有機物ではなくて無機物である」と書いてあります。
例外が存在する定義なんて他にはありません。

また、水素をふくんでいるからこそ水ができるはずなのに有機物であることの条件に水素をふくんでいないことや、「ふつう水ができる」などという曖昧な説明で逃げていることなど、やはり定義としてはおかしさ一杯です。


だから、中1の問題集に出てくる次のような問題で子どもたちが首をかしげるのもうなずけます。

例題:次の物質のうち、有機物をすべて選べ。
(1)砂糖、(2)塩化ナトリウム、(3)スチールウール、(4)プラスチックの容器


有機物の定義自体が矛盾をふくんでいるうえに、「炭素をふくんでいるかどうか」や、「燃えると二酸化炭素と水ができるかどうか」を、ほとんど中学理科を学んでいない中1の子が判断できるはずがありません。

私は授業では、「矛盾だらけの記述でおかしいやろ?実はね、昔は生物、つまり動物・植物の仲間を有機物、そうでないものを無機物と思っていたんだよ。ところが、そう単純ではないってことがわかってきたんだけど、有機物・無機物という用語は残ってしまったんだ。」

「だから、有機物か無機物かを判断するときは生物の仲間かどうかで判断するのが手っ取り早い。砂糖はサトウキビから作るから元植物で有機物。塩化ナトリウムやスチールウール(鉄)は生物じゃないから無機物。プラスチックは何から作る?そう、石油。石油は大昔の植物が変化したもの。だから、植物の仲間で有機物。これで簡単に解けるよ。」と教えています。

なぜ、こんな不思議な用語を後生大事に教科書に載せているのか、不思議で仕方がありません。


ところで、では無機物とは何か?

テキストによると、「有機物以外の物質」だそうです。

有機物とは何かがはっきりしないのに、無機物とは有機物ではないもののことですなんて、何かのギャグかと思わず笑ってしまいます。


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ところで、この摩訶不思議な「有機物と無機物」ですが、中1の『物質』の単元以外に、中2では『消化』で、中3では『食物連鎖』で出てきます。

私は、各学年、各単元で、それぞれ有機物を別々の意味で理解したほうがよいと教えています。

中1では、有機物とは「炭素をふくむ、生物に由来する物質」のこと(生物に由来しないものが無機物)。

中2では、有機物とは「炭水化物・タンパク質・脂肪の3つの栄養分」のこと(3つの栄養分に含まれないカルシウムやカリウム、ナトリウムなどが無機物)。

中3では、有機物とは「落ち葉や動物のフン、死骸などもともと動物・植物であったもので、水にとけないから植物の根からは吸収されないもの」のこと(微生物によって根から吸収できるほど分解されてしまったものが無機物)。




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