日経ビジネスさんの記事です
中村修二(なかむら・しゅうじ)氏
カリフォルニア大サンタバーバラ校(UCSB)教授
1979年徳島大大学院修士課程修了、日亜化学工業入社。1993年に青色発光ダイオード(LED)、1995年に青紫色半導体レーザーを開発。1999年に退社。2000年から現職。青色LEDの特許権譲渡の対価について日亜化学と訴訟で争ったことで知られる。2011年、米国テレビ界で活躍した人や優れた作品に与えられるエミー賞を受賞した。2014年にノーベル物理学賞受賞。
Q.所属していた日亜化学工業を退社した後、アメリカの大学で教授に就任して10年以上が経ちました。アメリカには世界中から有能な人材が集まりますが、どこに魅力があると感じますか。
中村:大学教授になったせいもあると思いますが、日本に比べ圧倒的に自由です。日本は規制天国ですな。何というのか、島国にずっと閉じこもっていたので非常に保守的。一度規制を作ったら変えないし、時代錯誤になっても維持してがんじがらめになっている。
日本が発展するには一回完全に沈没して古いシステムをがらっと変えないといかんでしょう。政治家も分かっているようですが、絶対変わらないと思いますね。一回つぶれて、すべてのシステムを変えないと。
知り合いの日本人に言わせたら「もう日本はつぶれてる」って。まあ家電メーカーはむちゃくちゃな赤字を出しているわけですし。自動車もつぶれるくらいまで行って追い詰められないと、がらっと変わらないでしょう。
安倍さんもかなり真剣にやっているけど、まだ全然足りない。司法制度、教育制度、ありとあらゆるシステムをすべて壊して今の時代にあったシステムにしないと存在していけない。
アメリカが違うのは時代に合うようにシステムをどんどん変えていくこと。それと人材です。移民を受け入れてきたのが強みになっている。移民がなければ今のヨーロッパと一緒に停滞していたでしょう。
いろんな人がいるほど社会は安定する
ヨーロッパの人は理論を作るのは得意ですがモノ作りは下手。理論だけですよ、はっきり言って。例外はドイツくらいで、それ以外の国は経済がおかしくなっているでしょ。アジアは逆。体を動かすモノ作りは得意ですが、理論は苦手です。
アメリカは各地の移民を受け入れて、モノ作りの人と理論の人がうまく組み合わさっている。移民を受け入れなかったらギリシャみたいになっていたんだろうと思いますよ。
Q.移民はアメリカの強さにつながっているということですか。
中村:いろんな人がいるほど社会は安定するんですよ。物理学にエントロピー増大の法則ってありますね。なんでもバラバラになろうとする。バラバラになったほうが安定するんです。
日本は平等サラリーマンでみんな同じ。アメリカは貧乏人からスーパー金持ちまでいる。みんな同じというのは崩壊する運命なんですよ。エネルギー的にこんな不安定な国はあり得ない。
世界はアメリカ式の国になっていくのではないかと僕は思っています。日本は一番不安定なんですよ。今つぶれる方向に向かっているのは良いことなんです。新しい時代に合ったシステムができるから。
Q.技術者として見た場合、アメリカの良いところは何でしょうか。
中村:全員がアメリカンドリームを見るチャンスがあることでしょう。いい発明をしたら、誰でもビル・ゲイツみたいになるチャンスがある。日本ではそんなチャンスは与えられていない。永遠のサラリーマンなんです。一生懸命働いても途中で肩たたきにあって、年収が半分になってしまうのが日本の科学者や技術者。
ベンチャー企業もありますけれどアメリカに比べるとないに等しい。有名大学、有名企業に入って永遠のサラリーマンをやるのがいいと思っている。全くの間違いなんですが。「こんなサラリーマン生活はわしの夢じゃなかった」と気がついて酒場で酒飲んで文句を言う。そういうのをすべて壊さないといけません。
ご自身も企業で技術者をしていました。
中村:ええ僕もそうでした。出たのが徳島大学でしょ。電子工学科だと、夢は東芝、ソニー、シャープ、松下(電器産業、現パナソニック)に入ること、それが夢ですから。成績の良い順に推薦を受けて入社できるんです。
国語も英語にしてしまえ
学科には100人くらいいましたが、成績1番の学生は電電公社、今のNTTに行けるわけです。「電電公社に推薦で入れるぞ、1番になれ」って。もう洗脳ですよ。アメリカじゃ考えられない。夢見るのは個人でベンチャーをやることですから。
大学にも責任があると。
中村:こちらの大学だと工学部の教授はほぼ100%、企業のコンサルティングをやっています。そして50%は自分のベンチャー企業を持っています。学生も自然にベンチャーに目が向くわけです。日本はゼロですよね。
日本に外国から人材が来てもらうには何が必要だと思いますか。
中村:やはり言葉でしょうな。英語は世界標準語です。特にサイエンスや技術ではそう。学会でも全部英語です。ですから英語ができる国にしないとまず来ない。アジアで人材が集まっている国はシンガポールと香港ですよね。
日本は保守的だから難しいと思いますけれど、一度崩壊したら言葉も英語にしてやり直したらいい。日本民族だけで日本語しか使わないのではどうしようもない。
日本企業でも英語を公用語化しようという動きが出ていますが。
中村:いや言葉は企業だけではダメでしょう。小さい頃から変えないと。例えば、小学校では英語以外しゃべらないとか。国語も英語にする。保守的な人が「とんでもない」と言いそうですが、学校では勉強も遊びもみんな英語にする。週何時間か授業でやるだけでは無理ですよ。
英語以外の課題は何でしょう。
中村:日本もアメリカンドリームを見られるようなシステムを作ることです。ベンチャーに投資して金持ちになる、自分でベンチャーをやってお金を稼ぐ。そういうことが可能なシステムを作る。
お金持ちは悪」の呪縛を解け
日本のもっと悪いところは「お金儲けが悪い」と教育していることです。その洗脳をまずやめる。特に科学者や技術者はそう思わされてきている。日本で理想の科学者ってどんな姿ですか。お金に無頓着で汚い白衣を着て、研究所に閉じこもって黙々と研究する。それが理想の科学者なんですよ。
そんな洗脳はやめないといかん。科学者はビル・ゲイツみたいに大金持ちになって世界を変える。「ああいうのがいい」というふうにしないとダメです。
企業も変わらないといけません。僕もアメリカでLED電球のベンチャー会社を作りました。最初はたった3人でしたが、アメリカの会社はどこの大手でも会ってくれる。日本で言うとソニーの研究所所長レベルの人でもすぐにアポイントが取れる。
ところが日本でベンチャーやって、「3人の会社なんですけど」って言ったら怒られますよ。「わしを誰やと思うてる
んだ」と。こういうのをすべて破壊しないと外国人にとって魅力ある国というのはあり得ないですよね。
ベンチャーのシステムがないですし、人材も流動化していないし。日本人だけでしょ。やはり多民族国家じゃないと。ベンチャーを引きつける魅力はゼロですよ。
アメリカでも企業で一生勤め上げる人がいますよね。
中村:そういう人はいますよ。でも出来の悪い人ですから(笑)。元気で野心のある学生は自分でベンチャーをやるんです。
ベンチャーに誰がお金を出すかという問題もありますね。
中村:アメリカではベンチャーキャピタル(VC)やベンチャーで成功した人がたくさんいて、投資しています。
日本にはVCはないですよね。名前はそうなっていますけど、実際はないですよね。銀行だと担保がいる。個人資産を全部担保にして、つぶれたら全財産を取られるなら誰もやらないですよ。
後編はこちら
・ノーベル賞・中村修二教授「日本のように理系が冷遇され、文系が金持ちの国は後進国。日本の技術者は優秀なのに待遇は最悪で、見ていてかわいそう」
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