「やる気がない」「消費しない」などと、上の世代からはさんざんな言われようの20代。平成不況の最中に生まれ育ち、何かと“悟って”しまった彼ら「さとり世代」の知られざる生態とは? 気鋭の若者研究家、原田曜平さんと、現役の「さとり世代」の若者たちがレポートします。
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なぜ「コストコンシャス」なはずの若者たちが、リムジン遊びにハマるのか?

「さとり世代」と呼ばれる今の若者たちは、コストパフォーマンスへの意識が強く、消費にたいへん慎重だと言われています。特にかつての若者が飛びついていた「車」「海外旅行」といった高額消費には、より慎重だと言われています。

ところが最近、車や海外旅行ほど高額でないにせよ、新しい形の高額消費が若者たちの間で生まれてきたようです。

今回は若者研の現場研究員である多摩大学の学生たちが、若者たちのこうした「新しいぜいたく消費」について解説してくれます。

「バブルキッズ」たちの意外な消費動向

「リムジンで女子会パーティなう!」「ロンドンバスで○○ちゃんの誕生日パーティ! すごく楽しい!」……。

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今回のレポートを担当した多摩大学のメンバー。写真上段左より森岡賢司、平井嵩大、酒井仁、写真中段左より北川桃太郎、奥村勇太、大谷太陽、写真下段左より藤武翔、近藤圭介、伊藤智也

ここ数年、周りの友達と話していたりSNSのつぶやきを見ていると、こうした内容をよく見聞きする。そしてそのようなつぶやきには多くの「イイネ」や「うらやましい!」といった反応が寄せられている。

リムジンやロンドンバスの利用用途はさまざまだ。たとえば、誕生日や卒業、クリスマスといったパーティ。また、仲のいい友達との女子会に使ったり、成人式の会場へ向かうときに地元の友達複数で借りたり、ついには、高校生の彼女の卒業式に彼氏が花束を持ってリムジンで校門まで迎えに行くなど、さまざまな用途で利用する若者が増えている。

なぜこのようなゴージャスな行動をする若者が増えてきているのか? 周囲の若者にアンケートとインタビューをし、分析を試みた。

ケース1:東京都多摩市に住む男子大学生A君(20歳)

まず、インタビューしたのは、多摩市出身で、現在も多摩市内の大学に通うA君。大学入学後にダンスを始め、いろいろな大学にダンスをしに行ったり、イベントで発表したりと活発的な学生である。

サークルの先輩女性の卒業を祝うため、後輩10人でリムジンパーティを企画。値段は1人当たり7000円で、合計7万円。120分コースだったという。

渋谷から六本木に至るコースで、東京タワーやお台場などのスポットで休憩して写真撮影も行われた。運転手が積極的に写真を撮ってくれたという。

「リムジンの中にモニターがあって、音楽を大音量で流した。サークルのメンバーと一緒でテンションが上がり、最後まで楽しかった」とAくん。シャンパン2本を注文、サービスで出た缶の生ビールを6本飲んだという。

「サークルは自分にとって家族のような存在。日頃からイベントで一緒に過ごすことが多く、リムジンパーティもその一環」とAくんは言う。

ケース2:神奈川県厚木市に住む専門学生B子さん(20歳)

次は、厚木から都内の看護系の専門学校に通うB子さん。勉学で忙しいB子さんだが、その一方でファッションに敏感で、イベントごとが好きであるなどアクティブな面を持つ。人見知りをせずに誰とでも仲良くなれる、気さくなタイプの人である。

彼女は専門学校の友達に誘われて参加した。長期留学から帰国した友達の友達の「おかえり記念」と「クリスマスパーティ」を兼ねての開催で、参加者は6人。うち3人が初対面だったという。

B子さんの場合、1人5000円で8人、合計4万円で予約(2人がドタキャン)。年末の繁忙期だったため、乗車時間は1時間ほどだったという。

リムジンパーティはとにかく楽しかったようだ。

「リムジンの中はハートの風船がいっぱいあって超かわいい! 運転手さんが積極的にたくさん写真を撮ってくれた。もう1回やりたい」「仲の良い子は1人しかいなかったけど、超楽しかった! みんなと仲良くなれた」「TwitterやFacebookにアップして友達からイイネ!やたくさんのコメントが寄せられてとてもうれしかった」

さらにぜいたく? ロンドンバス、クルーザー事情

ここまではリムジンパーティを取り上げたが、それ以外にも、ロンドンバスやクルーザーでのパーティも流行している。

ケース3:東京都調布市に住む男子大学生C君(20歳)

C君は、複数の友人の合同誕生日パーティのため、ロンドンバスパーティに参加した。複数人を同時に祝うため、リムジンより大人数が乗れるロンドンバスを選択したそうだ。また、ほとんどの人がロンドンバスパーティは未経験者であり、体験してみたいという声が多かったという。参加者は全員地方出身者。1人当たり6000円で、120分コースだったという。



「大人数で祝ったほうが思い出になるし、祝われる人もうれしい」「地元の友達に都会で遊んでいるということを見せたくて、SNSにもアップした」と語るC君。

 

ほかにもツイッターで検索して、ロンドンバスパーティをやっている人たちの書き込みを多数見掛けたが、参加者たちは一様にハイテンションだ。歩いている人に携帯で写真を取られたりして、優越感を感じているのかもしれない。

リムジン会は一昔前からあったが、しかし最近、特に増えているように感じる。近頃では、私たち若者世代の間では、よりレア感のロンドンバスという選択をする若者も増えている。

「優越感に浸りたい」「リッチ感を味わいたい」という動機に加え、若者ならではの「騒ぎたい、はしゃぎたい」というニーズを満たすことができるのは、車内が広いロンドンバスだったりする。

ケース4:神奈川県に住むDさん(20歳)

次も、ロンドンバスパーティに参加したDさん。

彼女はサークルの先輩の卒業記念のため、仲間とパーティを行った。「男女で盛り上がるのにはリムジンでなくロンドンバス」だと思ったそうだ。「都内のイルミネーションや東京タワーを回ってみて楽しんだ」「バブリーな体験ができた」「SNSにアップして、それの反響がとても大きかった」と本人は満足気だ。

ケース5:稲城市に住む男子大学生E君(20歳)
 

大学サークルのムードメーカー的存在であるE君。彼が企画したのはクルージングパーティ。ドライブ中にレインボーブリッジを通っているとき、橋の下に見えた屋形船を見て、すぐにサークルのLINEに書き込んだそうだ。

選択したのは、1人当たり5500円で120分のコース。当日、男子はスーツ、女子はドレスをドレスコードとし、お弁当を食べたり酒を飲んだりして盛り上がったという。

夕方5時から7時までのクルージングのため、太陽が沈む前と後の表情、さらにレインボーブリッジの装飾も楽しめ、参加者たちはとても満足したようだ。

バブル“遺伝子”を引き継いだ「バブルキッズ」?

さて、ここまで若者の「バブルパーティ事情」をお伝えしてきた。

いったいなぜ、消費・行動意欲が低いと言われる、いわゆる「さとり世代」の若者たちが派手なパーティにいそしんでいるのか。目立ちたいから、普通ではもうつまらないから、新しいことをやってみたかったからなど、理由はさまざま挙げられるが、私たちが今回5人を調査して考えた仮説は3つ。

まず第1に、親からぜいたくして遊びたいニーズが継承されているのでは、ということである。


46そのため幼い頃からバブル時代の「いい話」をたくさん聞いて育ってきた。実際に、若者100人に「親にバブル時代のよい体験を聞いて、かつうらやましいと思っている」かどうかをアンケート調査したところ、7割の人が「うらやましい」と思っているという結果になった(右図を参照)。

しかし、現実には、今の若者の日常生活は質素で、普段から親世代ほどのぜいたくはできない。そこで、イベントのときくらいは派手な消費をしようと、局所的にぜいたくをしているのではないか(ちなみに、若者100人へのアンケートによると、イベント時に使用できる金額は5001~7000円が最多だった)。

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実際にどのような「いい話」を聞いたのか。アンケートをとった中で「うらやましいと思っている」と回答した、ある大学3年生(20歳、女性)に直接、尋ねてみた。

彼女は母親(50歳)と仲が良く、母親が若い頃の話をよく聞くそうだ。たとえば「バブル時代は、男の人に買い物から食事、タクシーまで全部出してもらえた」といった話を聞いており、「そういう感覚を、一度でいいから味わってみたい」と冗談交じりに話してくれた。

前出のA~Eさんにも聞いてみると、ほとんどの人から同じような「うらやましい」発言があった。

「お父さんが若い頃に3カ月で1000万円稼ぎ、遊びで2カ月で使い切ったといった話を聞き、うらやましいと思ってきた」(A君)。「母親の時代の結婚式はとにかく豪勢で、登場は高級リムジン。演出でドライアイスを使っていたり、料理は一流シェフのフルコースと聞いて、すごいと思う」(Dさん)。「ごく普通の家庭だが、父親は趣味のバイクを3台も所有。若い頃につるんでいた仲間と今でもツーリングしたり、おカネをかけつつ楽しく遊んでいると思う」(C君)。

親から若い頃の話を聞いたり、現在でも時折、バブリーな消費行動をしているのを垣間見た若者が、ぜいたくにあこがれたとしてもおかしくはないのではないだろうか。

そして第2には、集団で過ごしたいという強いニーズだ。ぜいたく消費をしたいというだけなら、高級ホテルでの食事や、高価なブランド物を身に着けるなど、いくらでも手段はある。それなのに、リムジン女子会や、ロンドンバスでパーティといったパーティが目立つのは、大人数や仲のいい友達とみんなで楽しく過ごしたいという、若者ならではのニーズがあるからだろう。



第3の要因としては、SNSに投稿するネタとしてのニーズである。ネタにならないことには動かないというのは、今の若者の大きな行動原則である。若者にとっては、特にリア充(=実生活が充実している)アピールが仲間内できわめて重要で、その観点からいくと、リムジンやロンドンバスパーティは格好の自慢のネタになる。

景気回復が続く今後、もともとぜいたくをしたい欲求を持つ若者による「プチぜいたく消費」は、ますます増えていくのではないかと予想する。

原田の総評:複数の条件がそろえば、若者は消費する

リムジンパーティやロンドンバスパーティを開催するさとり世代の若者が増えている、という現場研究員のレポートはいかがでしたでしょうか。

今の大学生くらいの親世代は、かつて「バブル世代」や「新人類」と呼ばれた世代が多く、もちろん、世代全員ではないものの、上の世代に比べると、若いうちから消費を謳歌してきた人が多い世代であることは間違いありません。

今回のレポートにあったように、こうした親世代からの過去の武勇伝の語り伝えなどで、さとり世代は内心ではいくばくかのあこがれを持っていて、それがこのリムジンパーティやロンドンバスパーティに表出している面もあるのかもしれません。

特にバブルから20年以上経ち、過去のエピソードが報道や親からの口コミなどで、より増幅されて伝わっている可能性があります。特にさとり世代は親との関係が良好になっているので、よりダイレクトにそれが伝承されるようになってきているのかもしれません。

もちろん、親世代やバブル時代へのあこがれだけが理由なのではなく、バイトの時給が上がるなど、さとり世代自身が、多少、景気の上昇を感じてきたこともあるでしょう。また、彼らが日常的にあまり消費をしなくなったがゆえに、逆に非日常的なシーンには消費する余力がある、といった可能性も考えられます。

また、現場研究員の分析どおり、ソーシャルメディアで多くの友達とつながっている「さとり世代」は、モノを所有すること以上に友達と過ごす時間を重視するようになっているので、友達と一緒に体験できることなら、仮にぜいたく消費であっても行う、などの傾向が出てきているのだと思います。

さとり世代がかつての世代に比べると消費、特にぜいたく消費をしない傾向にあることは間違いありませんが、「友達と一緒に」「SNSにアップしやすい」などの複数の条件が整えば、彼らを消費に動かすことができるという、面白い一例なのではないでしょうか。 


参照http://toyokeizai.net/articles/-/50857